【まとめ】テニュアトラック制度とは何か?研究者にとって重要な雇用制度を解説!

今回はテニュアトラック制について解説していきます。

大学に「テニュアトラック助教」「テニュアトラック講師」などの先生がいるけどどういう意味?

「テニュアトラック」という言葉は知っていても、具体的な内容やメリットって?

この記事ではその概要から、具体的な公募方法、選考倍率、待遇、テニュア化の割合、問題点などについて詳しく説明していきます。

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テニュアトラック制の特徴とは?

テニュアトラックの特徴

日本のテニュアトラック制の概要を一言でまとめるこうです。

若手研究者に完全に独立した研究環境と資金を与えて、一定期間内で期待する成果を上げれば、任期のない安定的な職(テニュア)を得られる制度

特徴①:若手研究者が対象

対象者は博士課程取得後10年以内の若手研究者です。

特徴②:研究主宰者(PI)として、自立的に研究できる環境を提供

テニュアトラック教員は主に5年の任期付きで雇用され、以下のものが提供されます。

  • 研究資金
  • 自立した研究スペース
  • 主任指導教員としての大学院生の研究室への配属
  • 人的な支援体制(メンターの配置や事務支援などのサポートする体制)
メンターとは

テニュアトラック教員がトラック期間中に自立して研究することができるよう、研究室運営のノウハウを修得させ、また自ら筆頭研究者として外部資金を獲得できるようにするために広範囲な助言等の支援を行う経験や知識のある教員・研究員等。た分野に精通した指導教員(教授)のこと

これらの支援によって研究主宰者(Principal Investigator:PI)として、自立的に研究できる環境が整えられます。

あかのん

お金!
場所!
人的サポート!

特徴③:審査に合格すればテニュアポストを獲得

テニュアトラック期間中の年度評価や中間評価を経て、任期の終了前にはテニュア審査を受けることになります。

審査に合格すれば自機関にて任期のないテニュアのポストを得ることができます。

出典:科学技術振興機構(JST) (2011年)

またその際のテニュアポストにおいても、研究主宰者(PI)たる研究環境が確約されている必要があるとしています。

テニュアポストを得る際に、昇任は絶対ではないとされています。
例:テニュアトラック助教→テニュアの助教になる場合もある。

テニュアトラック制が登場した背景

テニュアトラックの背景

優れた研究成果を上げた研究者の多くは、若い時期にその成果の基礎となる研究を行っています。

以下の図ではノーベル賞受賞のきっかけとなった業績をあげた当時の研究者の年齢を表しています。

ノーベル賞受賞を獲得した研究を行った年齢
参照:科学技術振興機構(JST) (2011年)

しかしながら、現在の日本では若手研究者の研究環境は必ずしも良いとは言えません。

文部科学省もこう問題提起しています。

優れた研究成果を上げた研究者の多くは、若い時期にその成果の基礎となる研究を行っています。しかし、我が国の若手研究者の多くは、自立して活躍できる環境が十分に整備されていない状況にあります。また近年、大学や独法研究機関の基盤的経費及び総人件費の削減等が進められた影響などにより、若手研究者の安定的なポストが減少する傾向もあって、若手研究者は将来展望を描きにくくなっています。
文部科学省 科学文部科学省 科学技術・学術政策局 テニュアトラック普及・定着事業 (先進的取組活用促進プログラム) 公募要領より引用

あかのん

文科省の文章がまさにその通りすぎ

若手研究者が自由に研究ができ、かつ将来のキャリアパスを見通すことができるように任期終了後のポストを確保しておく仕組みが求められ、2011年に登場したのがテニュアトラック制です。

テニュアトラック教員の公募の特徴

公募の特徴

詳細は各大学に一任されていますが、基本的な指針については文部科学省が提示しています。

公募の特徴①:公正・透明な選考を行う

文部科学省によれば、テニュアトラック教員の公募および審査は以下のような内容が望ましいとしています。

  • 国際公募
  • 公募期間は2か月以上
  • 研究分野を広く設定
  • 公平で透明性の高い選考
    • 審査委員には実施機関外の第三者を加える
    • 機関外専門家による業績評価
  • 採用者の他機関未経験者の比率が高くなりすぎない(50%以下が望ましい)配慮

文部科学省 科学技術・学術政策局 テニュアトラック普及・定着事業 (先進的取組活用促進プログラム) 審査要領を参考

あかのん

公募の範囲を広く、期間も長くしているので、競争倍率はとても高くなります。でも、透明性が高い点が◎

公募の特徴②:一定の任期を付する

任期には、大学により様々な場合がありますが、5年以上が望ましいとされています。

あかのん

ひとまず任期5年が約束されていれば、腰を据えて研究を進められますね

公募の特徴③:任期終了前にテニュア審査を受ける

あかのん

テニュア審査に受かれば任期のないテニュア職になれます

テニュア審査の内容は

  • 研究活動
  • 外部資金の獲得実績
  • 特許・知的財産の実績
  • 教育活動

などの各大学での基準によって、文部科学省が指定する以下のポイントを遵守して行われます。

  • 公平で透明性の高い審査
    • 実施機関外の第三者を審査委員として加える
    • 機関外専門家による業績評価
    • 現在及び過去の研究指導教員やメンターを審査の全過程から除外する
      (もしくは、一部指導教員やメンターを入れる場合には、別途、指導教員を除外した審査過程も設けて2段階審査とする)

文部科学省 科学技術・学術政策局 テニュアトラック普及・定着事業 (先進的取組活用促進プログラム) 審査要領を参考

研究者にとってのテニュアトラック制の魅力は?

テニュアトラックの魅力

魅力①:自立した研究活動が出来る

テニュアトラック制度の最大の魅力は、若手研究者が研究主宰者(PI)として自由に研究活動に取り組むことができること

国と大学からの資金提供によって、研究主宰者PIとしての自立した研究室が用意され、研究室運営のための費用(実験設備投資や人件費、研究費など)が与えられます。

あかのん

若手で研究室が持てる

実際の支援金額

下図はテニュアトラック教員に採用された研究者の年間平均研究費です。

研究資金として初年度には約1000万、二年目以降には400~600万の支援が得られています(青色)

テニュアトラック教員の年間獲得研究資金の推移と外部獲得額の変化
出典:文部科学省 科学技術振興調整費 プログラム評価報告書(2012)

魅力②:研究活動を優先できる環境が配慮される

テニュアトラック教員の年間の全仕事時間を100%とした場合、そのうち研究活動に関するエフォートが60%以上であることが望ましい。
文部科学省 科学技術・学術政策局 テニュアトラック普及・定着事業 (先進的取組活用促進プログラム)公募要領を参考

とされています。

大学教員は、研究活動以外にも様々なタスクがあり、研究活動のエフォート割合が小さくなりがちです。

あかのん

講義やら、入試やら、本当にいろいろ…

なるべく研究に集中出来る環境を整えるため、研究以外の仕事をある程度免除してもらえるようです。

魅力③:研究人口が少ない研究領域でも応募できる

興味のある研究が研究人口が少ない領域である場合、既存の講座がなく、所属先を見つけるのが難しいことがあります。

特に、海外のラボ経験者が日本に戻ろうとしたときに関連講座がない場合も多いようです。

あかのん

頭脳循環が悪い…

テニュアトラック教員の公募では、このような状況を回避するため、研究分野が幅広く設定されています。

魅力④:メンター教授によるサポート体制

若手の研究者が、普通ならありえない待遇で研究主催者(PI)として研究室を持つことができるのがテニュアトラック制ですが、経験値が少ないゆえに研究活動や研究室運営などさまざまな点で困ることも出てきます。

そのために、研究領域が近いし選出された教員がメンターとして指導やサポートをします。

あかのん

相談できる指導教官がいるのは有難いですね

テニュアトラック教員の応募倍率

応募倍率

科学技術振興調整費 プログラム評価報告書(2012)によると、当時導入されていた21機関での平均応募倍率は平均20倍を超えたと記載されています。

また、早稲田大学理工学部のR2年発表では、H24~27年度のテニュアトラック教員の公募(合計10名)に対して、専攻によってばらつきがありますが、1名募集に2~50名(平均18.4倍)の応募があったようです。(早稲田大学 テニュアトラック普及・定着事業 5年間の活動成果 成果報告スライド(R2年3月)

テニュア審査

テニュア審査とは

テニュア審査までの流れや審査自体についても各大学それぞれですが、大体の流れをご紹介します。

審査までの流れ

運営者が作成

テニュアトラック期間中の流れについては各大学でいろいろですので、適宜ご確認お願いします。

テニュア審査の内容

評価基準についても各大学それぞれが設定していますが、以下のようなものが挙げられます。

  1. 研究活動
    • 当初の研究計画の達成度
    • 今後の研究計画(テーマ)の先進性・独創性・将来性
    • 論文や著書等の発表
    • 国内外の学会発表、招待発表
    • 各種の表彰・受賞等の実績
    • 学内外との共同研究
    • 受託研究等の学外連携
  2. 外部資金の獲得実績
  3. 特許出願、知的財産(ソフトウエア開発)に関する実績
  4. 教育活動
    • 講義・指導の内容
    • 学生授業アンケートの結果
    • 教員としての資質や適性(性格、表現力、リーダーシップ)
    • 教員としての明確な意識(姿勢、抱負)

そしてこれらの審査は以下のように透明性の高い審査方法で行われます。

  • 公平で透明性の高い審査
    • 実施機関外の第三者を審査委員として加える
    • 機関外専門家による業績評価
    • 現在及び過去の研究指導教員やメンターを審査の全過程から除外する
      (もしくは、一部指導教員やメンターを入れる場合には、別途、指導教員を除外した審査過程も設けて2段階審査とする)

文部科学省 科学技術・学術政策局 テニュアトラック普及・定着事業 (先進的取組活用促進プログラム) 審査要領を参考

テニュア審査の合格率

テニュア審査の合格率

テニュア審査で落とされる確率は?

気になるテニュア化の割合についての資料を探したところ、少し古いですが見つけました。

テニュア審査の合格率は約8割

テニュアトラック終了後の採用状況
参照:科学技術振興調整費(科学技術人材育成費補助金)「若手研究者の自立的研究環境整備促進」における人材養成システム改革の動向と課題 関連資料
をもとに運営者が作成

(上図には人数が明記されていませんが、他のページには「自機関テニュア職採用:184名(/287名)」とありました)

あかのん

「テニュア審査を受けずに他機関などへ転出した者」18%を除くと、テニュア審査の合格率は約8割になりますね。

他にも、人数は少ないですが、R2年度に公開された早稲田大学理工学部の資料も紹介します。

H24年度以降テニュアトラック普及定着事業により採用した5名のうち4 名がテニュアを獲得
(うち2名は前倒しでテニュア化)
早稲田大学 テニュアトラック普及・定着事業 5年間の活動成果 成果報告スライド(R2年3月)より引用

あかのん

こちらも8割ですね。

テニュアトラック制の問題点(課題)

文部科学省が5機関(東京大学、京都大学、名古屋大学、慶應義塾大学、早稲田大学)を対象にヒアリングを行った際に浮上した問題点(課題)が以下の点です(実施期間:平成26年10月末~11月初旬)

  • 大学によるテニュアトラック制の定義や目的に対する認識の差違
    • 今後、テニュアトラック制がどのような目的・要件の人事制度を指すのか改めて明確にすべきである。
  • テニュアトラック制でのテニュア審査から外れた場合の民間企業への就職が難しくなる。
    • 大学のみならず、産業界も含め我が国全体として流動性を高める取組を行わなければならない。
  • 学問体系や当該分野における人事慣行によってテニュアトラック制の導入の向き不向きがある。(例えば、学問領域ごとに教員数が固定されている法学部では、不向きである一方、病院や民間企業への異動も多い医学部では、実質的な導入は進んでいる。)
  • 准教授から教授に昇任する際に、しっかりと外部審査を実施する仕組みが必要

まとめ

今回はテニュアトラック制について、まとめました。

  • 研究主宰者として自立した研究活動ができる
  • 研究スペースや研究資金が提供される
  • テニュア審査に合格すればテニュアポストに就ける
  • 研究人口が少ない領域でも応募できる
  • メンターのサポートを受けられる

など、研究者にとってはメリットの多い制度になりそうですね。

ではまた、別の記事でお会いできることを楽しみにしております。

あかのん

他の記事も覗いていってくださいね

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