【ポスドクの実態を統計データで解説】特徴・働き方・年収・任期・問題点まとめ
こんにちは。当サイトの運営者のあかのん(@HAcademianote)です。
大学の研究室に「ポスドク」という研究者がいるけどどういう人?
博士号をとった後は「ポスドク」になることが多いって聞くなぁ。
どんな働き方や年収になるのか不安…
ポスドクとは、「ポストドクター」の略で、博士号を取得した後に非正規で働く研究者のことを指します。
現状のアカデミアでは大学教員ポストの競争が激化しており、非正規雇用のポスドク(研究員)として一時的に働く研究者が多くいます。
この記事では、ポスドクの全体像を『特徴、働き方、属性、任期、年収、問題点、メリット』から詳しく説明していきます。
主に紹介するデータはポストドクター等の研究活動及び生活実態に関する分析(2018)を元にしており、現時点での最新データです(2023年10月時点)
ポスドクとは?
まず、ポスドクの定義ですが、「博士号取得後に任期制の職に就いており、大学教員や主任研究員のポストについていない研究者」です。
さらに具体的にポスドクについて定義をすると、以下の4つの要件を満たすものです。
- 博士号取得者、又は博士課程満期退学者
- 大学等の研究機関において、任期付きで研究業務に従事している者(謝金による支払いを受けている者、人材派遣会社から派遣されている者、給与等の支給を受けずに研究活動を続ける者も含みます)
- 教授・准教授・講師・助教などのポストについていない者
- 研究グループのリーダー・主任研究員などのポストについていない者
大学教員が「正社員」であれば、ポスドクは「アルバイト」というイメージでほぼ間違いありません。
ポスドクの雇用上の正式職名は多様
文部省の調査から、ポスドクとして働く研究者に対して所属機関における「正式な職名」を自由記述方式で答えてもらったところ、1035名に対して100種類を超える職名が回答されています。
ポスドクの正式な職名の例
- 特別研究員
- 研究員
- 博士研究員
- 産学官連携研究員
- 特任研究員
- 非常勤研究員、等
機関によって様々な呼び方があるんですね
ポスドクになるまでの流れ
博士号取得した後すぐに大学教員になれる人は限られているため、ポストがなかった研究者はポスドクになります。
例外的に、博士課程最終年度に日本学術振興会の特別研究員PDなどのフェローシップに採用が決まった場合には、就職活動をせずにポスドクとして活動することも多いです。
ポスドクは「研修期間」ともいえる
ポスドクの立ち位置について一言でまとめると、「研究業績を積みながら、アカデミアや産業界においてより高いポジションを得るために備える期間」といえます。
ポスドクは研究者の研修期間として誰もが通る道と位置づけられつつあります。
ポスドクの特徴
ポスドクの働き方の特徴には以下の4つの特徴があります。
- 任期がある
- 研究主宰者(PI)の下で働く
- 給与の財源はさまざま
- 他職の同年代と比べて薄給
ポスドクの特徴①:任期がある
ポスドクの任期は主に1~5年程度の任期。
成果やプロジェクトの進行状況によっては、契約を更新することで、雇用当時の契約年数以上に働く場合もあります。
また、雇用財源が研究室の基盤研究費などであれば、契約更新を繰り返しながら長期に働いている場合もあります。
任期については詳しくは後述します。→ポスドクの任期
ポスドクの特徴②:研究主宰者(PI)の下で働く
ポスドクは自身で研究室を持つことはなく、雇用主である研究主宰者(PI)の下で働きます。
そのため、以下の例に示すように、働き方にもさまざまなケースがあります。
- 例:取り組む研究が決められている
- 例:決められた分野の範囲内であれば、比較的自由にポスドク自身の研究ができる
- 例:大学教育面での補助の仕事が多い
ポスドクの特徴③:給与の財源はさまざま
ポスドクは研究室や大学等に雇用されている場合と、自身で外部資金から給与を獲得している場合があります。
- 大学から支給される研究費(基盤的経費等)からポスドクの給与を支給
- 研究主宰者(PI)が外部から獲得した研究費(競争的資金等)からポスドクの給与を支給
- ポスドク自身が自らの給与を外部から獲得している(フェローシップ)
くわしくは後述します→ポスドクの雇用財源へ
ポスドクの特徴④:他職の同年代と比べると薄給である
採用条件によってばらばらですが、ポスドクの年収300万~600万です。
フルタイムの常勤で働く場合もあれば、週2~3日などの非常勤で働く場合もあります。
博士号取得者は早くても30歳手前であることを考えると、同年代を比べると薄給といえます。
分野別などの給与の詳細は後述します→ポスドクの年収へ
ポスドクの人数
初めに、ポスドクはどのくらいいるのか?という視点からみると、2018人時点で15590人。
現在でもおよそ15000人くらいはいると思われます。
2021年時点で、アカデミアの研究者の総数は33万6800人と調査結果がでていたので、アカデミア研究者の23人に一人くらいはポスドクという計算です。
ポスドクの性別と年齢
年齢が高めなのが気になる
実は2014年で行われた同じ調査より高齢化しています
これには、大学教員の若手採用の流れに年齢が合わなかった同時の中堅ポスドクの方々が、いまだにポスドクとしていることも一つの理由として考えられます。
ポスドクが働く場所
大学で74.9%を占めます
ポスドクの分野
理系が多いですね
ポスドクの任期
ポスドク契約時の任期をみると、1年以下が過半数を占めます。
え、思っていたより短い…
短くみえるのですが、実は「短い任期の再契約を繰り返し」て、長く働いている場合も多いんです。
なるほど!
こうみると、半数近くのポスドクは5年以上同じ機関で働くことができるんですね。
もちろん、長々とポスドクでいるよりは、早めに正式なアカデミックポストを獲得したいというのが多くの研究者の本音かと思います。
ポスドクの雇用財源
2018年度の実態調査では、ポスドクの雇用財源は以下のように分布しています。
財源は本当にいろいろです
研究室主宰者(PI)であるボスが、外部から獲得してくる資金のこと。
研究開発課題について申請書を書いて応募→評価が良ければ採択→研究開発資金が配分される。
代表的なものに、文部科学省の科学研究費助成事業(通称:科研費)があります。
ポスドク自身が自らの給与を外部から獲得できる制度です。
代表例は、日本学術振興会 特別研究員PDです。詳しくは後述します→特別研究員PDへ
上図のフェローシップの内訳は、日本学術振興会特別研究員と日本学術振興会外国人特別研究員で約99%を占めています。
ポスドクの年収
平均年齢 | 年収(万円) | |
---|---|---|
全体 | 33.0 | |
分野別 | ||
人社 | 33.3 | |
理学 | 33.0 | |
工学 | 32.3 | |
農学 | 32.7 | |
保健 | 34.0 | |
その他 | 34.5 |
上図は2008年にポスドクを対象に行った調査の結果です。(国からの新しい調査はこれ以降出されていませんので古いです)
給与に関しては常勤/非常勤などの雇用形態で大きく差があります。
例えば人文系などは非常勤の割合が高いため、ポスドクとしての給与も低い計算になります。
30歳手前の博士の給料と考えるとかなり安い…
JREC-INをみれば給与の相場を確認できる
もしあなたが、自分の研究分野のポスドクの給与相場を確認したい場合にはJREC-INが活用できます。
「職種:研究員・ポスドク相当」にチェックを入れ、研究分野などのキーワードで検索するとそれぞれの分野の採用条件が出てきます。
年俸制や時給制など雇用状況はさまざまです。
年俸制で25~50万円/月
時給制で1500~2500円/時間
ざっと検索するとどの分野でもこのくらいの給与価格帯が多そうです
公的研究機関の任期制のポスドク研究員などの給与を載せていますので、こちらもご参考になさってください。
例外的なポスドク
日本学術振興会特別研究員PDや研究所からの公募など、毎年決められたポスドクの枠が設けられている制度もあります。
非常に自由度が高い研究活動ができるため、応募倍率も高く、優秀な人材しか通らない狭き門です。
日本学術振興会 特別研究員PD
優れた若手研究者に対して生活費と研究を支給する制度(支援機関:日本学術振興会)
博士課程修了後に受給可能な特別研究員には以下の3種類があります。
- PD
- RPD(出産育児などで研究を中断していた研究者が対象)
- PDに採用されている研究者が申請可能なCPD(国際競争力強化研究員)
特別研究員PDに絞って制度を簡単にご紹介します。
<特別研究員PDの場合>
- 応募条件は博士課程修了後5年間以内
- 採用人数は文系理系あわせておよそ350名と非常に少ない
- 採用期間は3年
- 生活費:36.2万円/月
- 研究費:150万円以内/年
これまで受入機関と雇用関係を有していなかった特別研究員ですが、令和5年度より特別研究員PD・RPD・CPDを受入研究機関で雇用することが可能になったため、厚生年金や雇用保険が適用されるように改善されました。
従来 | R5年度以降 | |
---|---|---|
身分 | 日本学術振興会特別研究員 (雇用関係なし) | 受入研究機関の職員 |
給与等 | 「研究奨励金」として日本学術振興会から支給 | 給与」として受入研究機関から支給 | 「
各種手当等 | なし | 通勤手当、超過勤務手当等が支給 |
公的年金 | 国民年金 (第1号被保険者) | 厚生年金 (第2号被保険者) |
健康保険 | 国民健康保険 | 健康保険組合・共済組合等による健康保険 |
雇用保険 | なし | 適用あり |
労災保険等 | 傷害保険に加入 (日本学術振興会がが全額負担) | 適用あり (受入研究機関が全額負担) |
所得税 | 日本学術振興会が源泉徴収 | 受入研究機関が源泉徴収 |
住民税 | 各自で納付 | 給与から天引き |
研究所から毎年公募されるポスドク
研究所から定期的に公募されるポスドクもあります。
有名な理研の特別研究員を例に挙げますね
理化学研究所 基礎科学特別研究員の例
待遇 | 年俸制で550,000円/月(社会保険料込み) 通勤手当(上限55000円/月) 住宅手当(家賃の一部) 赴任旅費(当研究所規定に基づく) |
任期 | 3年 |
こちらはポスドクとしてはかなり高給です。
さらに社会保険あり、科研費等外部資金への申請資格ありです
ポスドクの問題点
問題点①:経済的に不安定である
今の給料では安すぎるし、ボーナスだってない。
ポスドクは薄給であり、多くの場合でボーナス等もありません。
そのような中、社会保障に加入している割合がポスドクでは低いという問題もあります。
2018年の調査では社会保険に加入しているポスドクは65.9%という低さでした。
問題点②:研究に並行して次の職探しもしなければいけない
任期が終わった後の次の職が決まっていない…
ポスドクは任期満了までに次のポストが見つからなければ無職になる恐れがあります。
研究に力を入れて業績を挙げたい時期であるにも関わらず、次のポスト獲得に向けて就職活動も同時並行しないといけません。
このように研究活動が十分にできないことも問題点として挙げられています。
問題点③:職場が変わることで引っ越しが多くなる
次の職が決まったからまた引っ越ししないと…
研究者の求人は、全国各地です。
短い任期で居住地を変わることになれば、経済的や精神的にも負担が大きくなります。
特に所帯を持っている場合には、単身赴任、配偶者の就業、子供の転園や転校など、問題はさらに複雑になります。
ポスドクになるメリット
一見するとデメリットが大きいポスドクにみえますが、そのデメリットを上回るメリットもあります。
メリット①:複数の研究室からノウハウを獲得できる
研究室というのは非常に閉鎖的です。
対外的にみれば同じ研究をしていても、研究手法が全く異なっていることも日常茶飯事です。
つまり研究室の実態は「所属してみないと分からない」に尽きるのです。
ポスドクとして若手のうちに複数の研究室を経験することで、以下のようなノウハウを獲得することができます。
これはポスドクの最大のメリットであるといえます。
- 研究手法のノウハウ
- 研究費獲得のノウハウ
- 研究室運営のノウハウ
研究手法のノウハウ
何か新しい実験系を始めようとしたとき、論文に書かれている研究手法を試しても再現できないことがあります。
また、同じ実験でも、研究室によっては非常に効率化されていたり、上手くデータを出すためのコツがあったります。
つまり、実際の研究手法は、実際に見て・経験しないと分からないことがほとんどです。
古い常識に囚われて無駄な作業が山積みになっている研究室もあるよ。井の中の蛙にならないように外の世界をたくさん見るべし!
研究費獲得のノウハウ
研究費獲得のノウハウを得られるのは最大のメリットかもしれません。
科研費などの競争的資金の申請書の書き方は、その研究室で受け継がれているデフォルトがあります。
若手が申請書を書く時には、多くのPIは自分の過去の申請書を「これを参考にしなさい」と見せてくれることも多いです。
私は今までそうでした
そこから、全体の構成や言い回しなどを学んで自分なりに仕上げた上で、PIに添削してもらいます。
「なるほど~!こう書けばいいんだ!」の気づきの連続です
また、研究室ごとに研究費を獲得しやすい財団などのリストもっています。
この研究費獲得のノウハウを獲得するためには、ポスドクは絶好の機会であるといえます。
研究室運営のノウハウ
研究室を運営するためのノウハウは、将来的にPIを目指すのであれば必ず学んでおいた方が良いです。
円滑な研究室運営は、良質な人材の確保や研究環境、研究業績のアップに直結します。
- 研究費の使い方
- 学生指導のあり方(論文や学会発表など)
- 学生指導体系のあり方(先輩のサポート体制など)
- ミーティングや進捗会のあり方
- 雑務の役割分担
- メンバー間での連絡方法・スケジュール調整方法
- 他の研究室との交流のあり方
これら全ての采配を決定するのもPIの役割です。
PIになるって大変
研究室の規模や内容によって、それぞれ最適なスタイルが異なると思います。
いろいろな研究室を経験して、ノウハウを蓄積していってくださいね
メリット②:人脈を広げることができる
研究者がキャリアを積む上で人脈はものすごく重要です。
- ポストの獲得
- 共同研究
- 知識や情報の共有など
研究者は孤独に研究しているようにみえて、人脈が幅を利かせている世界でもあります。
ポスドクとして多数の研究室に所属することで、より広く人脈をつくることが出来ます。
堅実なポスドク時代を積みあげることで、10年後20年後までこの人脈は生きてきます。
遠い将来、ポスドク時代のPIに助けられることだって十分考えられるよ
研究者はアカデミアに残るか企業研究者になるかの決断をする必要がある
ポスドク問題のことを考えると、博士とってアカデミアに残るのって難しそう。
もしこのような悩みを持っている方がいたら以下を読み進めてください。
研究者として生きていく上で、アカデミアを目指すか企業研究者になるかの決断をする必要があります。
研究者の働く環境は3つに大別されます。
国内の研究者の数※ | 特徴 | |
---|---|---|
大学(アカデミア) | 33万6800人 | 研究と教育の両輪 |
公的研究機関 | 3万8200人 | 研究に専念 |
企業 | 51万5500人 | 研究に専念 (研究開発による収益化を念頭においた活動がメイン) |
適性やライフプランによって決断してくださいね
アカデミアと企業研究者には違いが沢山ありますので、詳しくはこちらの記事でまとめています>>>
まとめ
今回はポスドクの概論としてSTEP①『特徴、働き方、任期、年収、問題点、なるメリット』についてまとめました。
よかったらSTEP②以降の記事もぜひのぞいてみてください
クリックで記事にとべます
最後までお読みいただきありがとうございました。記事更新のお知らせはXやインスタでも行っています。ぜひフォローしてくださいね
Xはこちら→@HAcademianote
インスタはこちら→@academia_note